アートを身近に、ホテルの新しいかたち
アートを身近に、気負わず触れられる空間を
ーーNUMLOKとの出会いは?
ちょうど明石町に移転された頃です。花が飾ってあったので、新しくできたのかと気になりました。お洒落だったので、僕から声をかけたんです。
新店だと思ったのですが、聞けばずっと平塚でやってるということで。“発信の基地にしたい”とおっしゃっていたのがすごくいいなと思いました。
ショップも絵などのアートを飾っていてすごくお洒落ですよね。
LAなどの海外アーティストさんの作品だというのが面白いです。うちのホテルもアートなどをコンセプトにしてるんです。
――ホテルにはアートが多く飾られてますね。
アーティスト前田真治さんが行っているGerman Suplex Airline というプロジェクトが制作したもので、至るところにアート作品があります。前田さんはロンドンの大学の芸術学部へ行かれていた方で、関西の方ですが、アメリカなど海外でも活躍されています。’19年のリノベーションの際に関わっていただきました。
――そのアーティストのよさは?
一般的にアートというものは、アートに対してあまり知識がなくても、パッと見て綺麗とか、可愛いとか刺激受けるものだと思いますが、その方が作るアートはこれ、どういう意味なのか、ちょっと考えるようなアートなんです。
モーガンのアートには解説書きをつけているのですが、それ以上に奥があるというか。アート鑑賞をより深く見てほしいっていう狙いがあます。
アートはいろんな解釈ができるので、なぜこの色?形?というところに疑問を持つ人もいれば、素材がいいという人もいます。
そのアーティストさんがおっしゃっていたのは、作り手が答えを別に答えを用意しておくわけではなく、それぞれが答えを出して欲しいというところで、見る側が考えれるようなアートになっています。
ホテルという場所は、何時間も滞在する空間です。美術館のような展示スペースより、ベッドの目の前にあるアートなのでずっと見ますから、自分なりの答えを見つけて欲しいです。
全19室すべてが違うテーマのアートに
――19室ある部屋全て違ったテーマがあるとか。
そのアーティストさんが1つ1つ全て考えてくれました。例えば、女性の成長をアートで表現しているような部屋があります。
“自由の女神”という部屋なんですが、女性の幼少期をイメージして、水を上げるジョーロのアート、思春期での初めてのデートをイメージした、壁のスニーカー、さらに大人になった女性をイメージしたシャネルを持ったドキンちゃんの塗り絵作品があります。
説明するのはちょっと難しいですね(笑)。
――そもそもアートを取り入れようとしたのは?
コロナ禍でホテルの価値がすごく変わってきたと感じます。従来のホテルは観光地などの拠点であることの方が多かった。
例えばディズニーランドに行くから、その近隣のホテルに泊まろうとか、東京で仕事があるからその近隣のホテルを探そうとか。
けど、このホテルで過ごしたいから行ってみたいというように、ホテル自体が目的になることも増えました。
ただ寝るところを提供するのではなく、何かの体験をを与えられるようにと考えました。
ありきたりなものをやるよりは、思い切ってやろうと取り組んだのがアートです。
アートというと敷居が高く、美術館などによく行くという人は少ないかもしれません。
けど、アートはいろんな表現や解釈ができて、すごく面白いコンテンツ。
もっと身近なものにしたい、ということでこうした体験できるかたちになりました。
絵の周りに柵を設けるのではなく、写真を撮ってもらってもOK。手の届くところに触れられるものにしました。
――高木さん自身はもともとホテル業界に?
元々博多で6年ぐらいビジネスホテルのフロントをやっていました。その頃はインバウンドなどで観光業も盛り上がっていいました。
SNSなどの宣伝施策をせずともお客様は来てくれるような状況。ただ、僕の目から見たらホテル業界は長い歴史の中で成熟されていて、ルールや役割も完成されているように見えました。
明日からこういうサービスをしたらどうかといった提案も、それはホテルがやることじゃないでしょ、という業界全体の雰囲気がありました。
クリエイティブなことがやりたかったし、ホテルに対する自分の感覚にも疑問が出てきたので、上京しエンジニアに転職しました。ところが、コロナ禍でさまざまなことが一変。
一流ホテルでも苦戦が強いられ、さまざまな変革がありました。個性やこだわりをを追求したブティックホテルという新しいジャンルの勢いが増していて。
今は試行錯誤してみんなで頭をフル回転してホテル業界の新しい時代を作るとき。
それだったらもう一度やってみたいと思うようになりました。
モーガンも“ブティックホテル”ですが、そうした中でこちらの話をいただき、最初は戸惑いもありましたが、こうしたアートを扱ったりしているのも面白そうでしたし。
こだわりから作りたいホテルを作れるという実感を持てるホテルならと思い携わらせてもらうようになりました。
ホテルが他から人を呼び、地域を盛り上げる存在に
――若い世代に人気ですね
東京、千葉、埼玉などからで、若い20代前半のカップルは多いです。
レコードも置いてるのですが、今の若い人にとっては新鮮かもしれません。
針を落として聞くというアナログなものを扱うのも1つの体験。
提供する側としても、どういう反応をするのか見るのは面白いですね。
ーー平塚というとどんな街?
やっぱりこだわりっていうか、クリエイティブな人が多いと感じますね。独自の文化というか、これが自分達のスタイルだということを提唱するような。
日本人というと、自分のことって控えめに言う人も多いですが、これが自分のスタイルを全面に出して、 ある意味ブルックリンのアメリカ人っぽい雰囲気があるというか(笑)。
かっこいいなと思います。サーファーの人たちとかもそんな感じがしますよね。話をしても、自分に自信を持ってるというか。
――今後やりたいことは?
そうですね、まだこのホテルで働き出して1年ちょっとで、コロナの影響もありまだ活動がなかなかできていないのですが、アーティストさんの活動拠点にしてもらったりもして欲しいです。
是非うちを使って、創作活動をしていただいてもいいですしね。
ご近所の方でも、ワークショップや趣味を発揮する場所にしてもらったり。
アートと言っても、何をしてもいいと思っています。
服でも、インテリアでも、いろんなことができると思います。写真や絵の個展、お花教室やヨガだって。
私がこのホテルの1番好きなところは自由であることで、ホテルだからこれしちゃダメだとか、ホテルがやることじゃない、というような時代はもう終わったと思ってます。
PROFILE
高木芳暢(たかきよしのぶ)/福岡県出身。大学卒業後5年半ビシネスホテルにてフロントスタッフに従事。その後、エンジニアを目指し上京し、現在はmissmorganhotelの現地責任者を務める。
miss morgan Hotel
(ミス・モーガンホテル)
住所:神奈川県平塚市明石町12−15
TEL:0463-63-0090
https://miss-morgan.com/
instagram/missmorganhotel/
取材・文/満山雅人