History
西海岸の空気を感じさせるセレクトショップ〈Rhythm Tribe(リズムトライブ)〉。2021年に八重咲町から明石町へ移転オープンした。ただ、前段にある12年続いたショップ〈Y-Que Trading Post JP(イケエトレーディングポストジェーピー)〉、さらには絶大な支持を得るメインブランド〈NUMLOK(ナムロック)〉について、まずは認識しておきたい。
取材・文/満山雅人 text : Masato Mitsuyama
PROLOGUE
〈Rhythm Tribe〉の代表・矢嶋宏隆は〈NUMLOK〉を立ち上げた本人である。その昔、彼は本場のスケーターたちに影響を受けたこと、そして父親の強い勧めもあり、アメリカの高校・大学に進学。その後、驚くべき行動力と実行力で様々なコネクションを構築し、LAにある幾つかのアパレルブランドにも精通するようになる。
中でも、LAにあるショップ〈Y-Que Trading Post(イケエトレーディングポスト)〉で働いていたことは現在に至る大きな契機となった。
当時そのショップで販売したプリントTシャツ“Free Winona(フリー・ウィノナ)”がアメリカで爆発的なヒット。矢嶋はLA滞在の際にそのTシャツのことをいち早く聞き日本販売を志願する。ちなみに、このTシャツは’90sのアイコン女優として活躍したWinona Ryder(ウィノナ・ライダー)がプリントされたもの。当時彼女が起こした万引き事件はご存知だろうか。
“Free Winona”というスローガンは過激でありながら、大したメッセージ性のないところが全世界でウケたという代物(後日ウィノナ・ライダー自身も着用)。
『W magazine』表紙で着用したWinona Ryderウィノナ・ライダー
矢嶋はこのTシャツを直接買い付け、日本で路上販売を開始。そんな中、東京のフリーマケットで販売を行っていた際に、サンフランシスコからのアーティストBrittnell Anderson(ブリトネル・アンダーソン)と出会う。
Brittnellが被っていた個性的なキャップに惹かれ、矢嶋が声を掛けたというのがきっかけ。Brittnellも「なぜ日本で“Free Winona”のTシャツを売ってるんだ?」と目に止まり、そこから交流がはじまることとなる。
NUMLOKのはじまり
〈NUMLOK〉デザイナーBrittnell Anderson
〈NUMLOK〉は平塚のブランドであると同時に、サンフランシスコのブランドでもある。というのも、前記Brittnellがブランドデザイナーだ。
彼はサンフランシスコ在住で、ハリウッド映画やマーベルなどのCGを手掛けているマルチメディアディレクターである。彼の幅広い知識と経験で、〈NUMLOK〉には洗練されつつもユニークで創造的なアイデアが落とし込まれている。
右:〈LOVE ME (ラブミー〉のcurtis kulig(カーティス・クーリッグ) 中右:〈AMERICANRAG CIE(アメリカンラグシー〉の店員neathon(ネーソン) 左:プロスケーター Mike York(マイク・ヨーク)
〈NUMLOK〉は“人種、性別、年齢を問わずどんな人にも着て欲しい”という思いと、“本当のストリートブランドを提供する”というのがコンセプト。2003年、LAの〈AMERICANRAG CIE(アメリカンラグシー)〉での取り扱いからスタート。その後〈Ron Herman(ロンハーマン)〉などカリフォルニアを中心に数店舗で取り扱いを開始。
上段:お世話になったLAの〈AMERICANRAG CIE〉の店員norm(ノーム) 中段:〈Fred Segal〉内〈Ron Herman〉でも〈NUMLOK〉を販売 下段:取り扱いのあったショップの方々たち。中央はタトゥーアーティストのJohn(ジョン)
LAのセレクトショップ〈Hot Rod〉に矢嶋が働いていたこともあり、〈NUMLOK〉が取り扱われていた。この店は映画『mid90s』の劇中で登場するスケートショップ『Motor』のインスピレーションとなっている。ちなみに右はDavid Browne(ディビッド・ブラウン)。Pharrell Williams(ファレル・ウィリアムス)など大物アーティストやセレブらと仕事をこなすデザイナー。この店で出会ったのがきっかけで〈NUMLOK〉とのコラボも実現している。ちなみに、後ほど紹介する“Love me”のCurtis kuling(カーティス・クーリグ)ともここで働いていた時期がある。
映画『Mid90s ミッドナインティーズ』
Y-Que Trading Post JPの誕生
本格的な日本展開に合わせ、矢嶋の繋がりで〈Y-Que Trading〉の日本出店が決まり、2005年3月19日に〈NUMLOK〉をメインブランドに扱うセレクトショップ〈Y-Que Trading Post JP〉が誕生する。
2005年オープン当初の〈Y-Que Trading Post JP〉
〈Y-Que Trading Post JP〉は矢嶋が代表となりつつも、アメリカ在住中に作り上げたネットワークを生かしつつ、日本では珍しいアイテムが多く取り扱われた。ただ、立ち上げ当初のショップは予算もなく、内装も仲間による手作り。
営業時間は夜11時、金曜は深夜1時までやっており、ときには明け方4時頃までいたという日もあった。多くの人が溜まるようになったが、周囲には良くも悪くも風変わりな店に映っていたのかもしれない。
〈NUMLOK〉というブランドを広めようと店頭で声を掛けるも、迷惑がる人たちもいた。だがその反面、支えてくれる人もいたのも事実。強く放つ世界観がありながら、そこに共感する人たちが交流する“集い場”となっていた。
音楽に精通する仲間も多く、彼らの協力あって周年パーティなどは大いに盛り上がった。
ちなみに、壁面に書かれた「Did you know Supreme started of the streets too?」は〈union〉ロサンゼルスの初期メンバーが路上販売していたころの矢嶋に言った言葉。店を立ち上げてから平塚を盛り上げたいという気持ちが強くなり、ずっと大切にしていた言葉を掲げた。
10周年のときから交流があるAndy Brownの友人huf
10 year anniversary
2015年4月、記念すべき10周年パーティは二宮の大きな会場で盛況を呈する。〈NUMLOK〉のBrittnell、DJのBenjamin Vallery、Zozがサンフランシスコから来日。そして、〈SLEISURE(スレイジャー)〉の Andy Brown(アンディ・ブラウン)、ニューヨークからhufが来日。
そして〈greenshit(グリーンシット)〉など〈NUMLOK〉にゆかりのあるアーティストらがライブ披露。会場に訪れた多くの人を盛り上げた。同じ〈NUMLOK〉関係者でも、ここではじめて面識を持つ交わりもあり、〈NUMLOK〉にとっては非常に意味のある一夜となった。
〈Y-Que Trading Post JP〉10周年パーティ
Rhythm Tribeの誕生
2017年3月19日、12年間という長きに渡り愛された〈Y-Que Trading Post JP〉閉店し、同年4月1日にさらなる飛躍のため場所を拡大移転。名前も新たにニューオープンしたのが現在営業している〈Rhythm Tribe〉である。〈NUMLOK〉、〈J2W〉、〈SLEISURE〉を中心に、コラボアイテムや西海岸から届くエッジの効いたアイテムが並ぶ。
話題となった〈NUMLOK〉×〈VIRGIL NORMAL〉
コラボレーションで話題を呼んだのがLAにあるショップ〈VIRGIL NORMAL(ヴァージル ノーマル〉のオーナー、Charlie Staunton(チャーリー・スタントン)とのコラボTシャツ。いまや〈VIRGIL NORMAL〉は世界のアーティストたちをも注目するようなショップであり、世間の話題性も高く即完したコラボTシャツのひとつである。
〈Rhythm Tribe〉1周年も多くの人が訪れた
コラボTシャツを着たCurtis kuling
NYを拠点に活躍するアメリカ人アーティストで、矢嶋の昔の同僚であるCurtis kuling(カーティス・クーリグ)とのコラボも実現。彼は“love me”のアイコンで一躍注目を浴び、様々な有名ブランドとのデザインプロジェクトだけでなく、絵画や彫刻といったものも発表している。
西海岸で最も有名なアート&カルチャー誌『Juxtapoz』でCurtis kulingが取材された際のビデオ。
2020年発売したLeahとのコラボT
2017年より〈JOYRICH(ジョイリッチ)〉などの元デザイナーであり、矢嶋と同僚だったLeah(リア)とコラボアイテムを発表。Leahは〈Fred Seagalフレッド シーガル〉、〈Ron Herman(ロンハーマン)〉ビジュアルマーチャンディレクターなど華々しい経歴を持つ。
2020年7月に発表された〈NUMLOK〉とのコラボのコンセプトは“peace on the street”。平和を願う想いが込められたリアの愛情溢れる作品となった。
右が〈HADN〉デザイナーStephen Anri Marshall
矢嶋はデザイナーStephen Anri Marshall(ステファン・アンリ・マーシャル)を迎え、オリジナルブランド〈HADN〉を立ち上げる。AnriはBrittnellを通して繋がった。彼は生粋のスケーターであるのと同時に、元祖リズムゲーム「パラッパラッパー」の2作目のアニメーションを担当したというクリエーターである。カリフォルニア州ユーレカ出身ながら、母親が日本人だという彼は、仕事の関係で現在は東京に移住している。ブランド名の〈HADN〉はH=human A=animal D=動物 N=人間という意味。
〈SLEISURE〉デザイナーAndy Brown
〈Rhythm Tribe〉を語るうえで欠かせないのがアリゾナ州フェニックス出身のAndy Brown(アンディ・ブラウン)。ペインター、グラフィティアーティストで、カラフルかつ独自の作風にファンは多い。
〈Rhythm Tribe〉のロゴ、さらにはシャッターアートもAndy Brownの描いた作品であり、この〈Rhythm Tribe〉の名付け親も彼である。また、Andy Brown のブランドSLEISURE(スレイジャー)〉のアイテムは前店より国内では〈Rhythm Tribe〉でしか取り扱いがない。
Sleisure 20th Anniversary from Danny Upshaw on Vimeo. このビデオは20周年の際のもの。ちなみに2021年で25周年。
“サボテン”はAndy Brownの代表的なモチーフ
Andy Brownはサンフランシスコ近代美術館、ハイアットリージェンシーホテルなど数多くのヴィジュアルを手がけてきたスペシャリスト。そんな彼が実は湘南でさまざまな活躍をしている。
たとえば、〈TOYOTA〉平塚西店の壁を使用したライブペイントを開催。20mに及ぶ巨大なウォールアートは、知る人ぞ知る湘南のアートスポットになっている。
Andy Brownが描いた〈TOYOTA〉平塚西店の壁
〈Rhythm Tribe〉のシャッターもAndy Brownによるもの
ほかにも、フードトラックで運営している〈YASUDA Burger〉の車体も彼が描いたもの。インパクトのあるデザインは、湘南・西湘地区の人であればひょっとしたら記憶にある人も少なくはないはず。さらに、3×3バスケットチーム〈SHONAN SEASIDE.EXE 〉のロゴデザインもAndy Brownが手がけている。こうした活動は〈Rhythm Tribe〉の縁がきっかけとなっている。
3×3バスケットチーム〈SHONAN SEASIDE.EXE 〉のロゴデザイン
そして2021年、いよいよ〈Rhythm Tribe〉は4周年を迎える。4月25日〈MILLION DOLLAR DOOMSDAY (ミリオンダラードームズディ)〉とのコラボレーションにより展開される新作。多種多様なコラボを行なってきた〈Rhythm Tribe〉だが、今回は制作に至るまでに2年を費やし、さらに1年延期を余儀なくされ、ようやく実現する待望のリリースである。今回のコラボの成功は〈Rhythm Tribe〉そして〈NUMLOK〉は次のステージへと進むことを予感させるものになるだろう。