引き継いでいきたい大切な場所
“〈numlok〉を着るあの人は、どんな人物なのか”というテーマで、ショップに出入りする様々な人を掘り下げるこの企画。かなりユルい更新で申し訳ありません。満を持してお届けする第2回のゲストは、茶園を営む園主・石井久和さんです。
ー西丹沢で茶園をやられているとか。
江戸時代から続く農家で、僕が7代目になります。茶園としてやりだしてからで4代目になります。一昨年、先代の父が他界して受け継ぎました。
そうは言っても、そんなに有名な茶園というわけではありません。うちもそうでしたが、神奈川県にある茶園は趣味でやるには広すぎるし、ビジネスで考えると小さい。そんな中間規模の茶園が多いんです。
ーであれば継続して営んでいくのは大変ですね。
先祖代々の農園を守るために赤字でも続けているのが、このあたりのお茶農家の宿命と言えるのかもしれません。みんな儲からないし、手間がかかるので、当然やめてしまう人もいます。仕方なくやるというのではやはり楽しくないし、幸せ図を描けない。
とはいえ、やめてしまうのが自分の中でいいとは思っていません。
ーさまざまな新しい試みをされていますよね。
丹沢の水で育った美味しいお茶。その魅力ある茶園を伝えるためになにか可視化できないかと考えていました。それが最近作った“茶園のテラス”です。
心地よくも印象的な茶園のテラス
茶畑の風景がすごく綺麗ですし、日本の原風景のような今あるものを残しつつ、それを感じてもらえたらと作りました。
この風景は次世代に引き継いでいきたい大切な場所だと思っています。
それに、美味しいお茶を作って飲んでもらうこと以外に、なにか新しい価値を見出さなくてはならないと考えました。
それには、ビジュアルを創出することやエンターテインメントとして感じてもらうことも大切です。
ーテラスがあることでイメージが湧きますね。
購入者がお茶を選ぶ際に、名産地であることや有名ブランドが大きく影響することがほかの農作物よりあります。
きちんと作った美味しいお茶だとしても、なかなか気づかれない。なので、“茶園のテラス”を通じて認知してもらえたらと思います。
神奈川県の人が神奈川にも自慢できるようなお茶畑があると知って、ファンになってもらえたらいいですよね。
お茶の産地からいいお茶を仕入れるのではなくて、地元のお茶を選んでくれたら。そこのプライオリティは高いです。
人と直接会って振る舞うという根本的こと
―茶園のテラスで多くの人に知ってもらえそうですね。
ただ、美味しいお茶を伝えるためにはFace to Faceが大切だとも思っています。飲み方によって味は変わります。
急須が違ったり、抽出時間や温度など、入れ方によっても変わりますし、そもそもお茶自体自分の家でも年によって違いはあります。一番いいところというのは出しづらい。
その点では、茶師などきちんと伝える人が伝えなくてはならないんですよね。WEBで幅広く売れる時代ですが、結局対面でやることが大切だったりします。そういった意味では自分自身も出ていかなければと思います。
生産者の顔が見えるだけじゃなくて、直の声を届けつつローカライズすることも重要です。
昔からある、千利休の茶室を作って上下関係なく対面でお茶を入れるというような日本のお茶文化はそこが基本。
今の時代でも、人と会ってなにかを振る舞うという根本的なところは大切だと感じています。
Numlok × Million Dollar Doomsday Byline TEE。フォトプリントのモデルにはPHOTO BOOK「Euthanasia」の表紙ともなるディエゴ・ジョンソンを起用。
―〈numlok〉との出会いは?
まだ矢嶋が店〈Y-Que Trading Post JP〉を出す前の頃ですね。
当時僕はDJやオーガナイザーとかをやってたんです。それに学園祭のようなものですが空間に凝るのが好きだったので、色々な仕掛けのアイデアでイベントを盛り上げていました。
矢嶋と初めて会ったのはヘルメットロックカフェで、珈琲飲みながら。
たまたま同じ年で、話があるから一度会えませんかと言われました。
そしたら、当時スヌープドッグの人形があったんですが「これ一緒に売りませんか?」って言われて(笑)。
それからずっと繋がっています。あんまり服に興味があったわけじゃなかったんですが、矢嶋の想いを感じて買う予定がないけど買ってしまう(笑)。
自分とは生きてきた環境は違うんですが、そういうところが面白いですね。
矢嶋はストリートカルチャーの真ん中にいて、昔から自分が絶対やらないようなことをやる。
ー矢嶋とは違うタイプなんですね。
自分はやりたい思いがあっても、堅実に土台を作ってロジックがないとダメなタイプ。けど、相反して矢嶋は理想像から語るところがある。
素直さというか、いいものだから買ってくれというピュアな部分があって、道ゆく人に声をかけたり。
ただ先ほど話した、お茶を伝えるためにはFace to Faceが大切だ、というところでの気持ちや想いは同じなのかもしれません。
PROFILE
石井久和(いしいひざかず)/1977年12月1日生まれ、大磯出身。いしい茶園4代目園主。茶園等の耕作放棄地の再生、魅力ある日本の原風景の楽しみ方を日々模索中。日本サッカー協会B級指導者ライセンスを持ち、現在は鎌倉インターナショナルFCサテライトの監督も務める。
いしい茶園
https://ishiichaen.com/terrace.html
instagram/@1ch23
取材・文/満山雅人